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にんじんな日々
にんじんな日々     2006年12月14日  
 芸戸教授 または僕のリハビリな日々
 
その3


そうした小さな医療施設、夕焼け小焼け病院を率いている人がいる。芸戸教授である。彼はやや小柄な多分50代の、イメージ写真でも解るように一見して真面目な人である。イヤ一見しようが二見しようが三見しようがともかく真面目なのである。真面目そうだ。真面目に違いない。・・・と思う、多分。
 
 と段々トーンダウンしてくる。これなどは人生の荒波にもみくちゃにされて、今にも捨てられようとする鼻紙みたいになってしまった、このにんじん亭の「結局人間なんて解らないものサ。」という深ぁい人間洞察に他ならない。マァそんな事はさておき彼の指示の元夕焼け小焼け病院は日夜地域医療に邁進しているのである。
 
と言うわけで彼はこの病院のトップであるわけだが、彼の信条と弱小病院の医師不足の悲しさと一応外様サラリーマン責任者の生真面目さで週に一度は外来診察に立つ。
 
 とある彼の診察の日、「あしがらさ〜ぁん」と看護婦の呼ぶ声が聞こえる。
「またあのばぁさん来よった。」と彼は心の中で苦々しく思うが、そんな事おくびにも出さずに芸戸スマイルを心がける。
 
足柄クマは看護婦に呼ばれて3分ほど後に彼の前に腰掛ける。
「何で3分もかかるんだ?ドアは確かに1枚有るけど5メートルも離れていないじゃないか。」と内心不満であるが、ここはスマイルスマイル、なにせぼっ僕は責任者なんだから・・・。
「今日はどうしました?」看護婦のプレヒアリングは聞いているけど、一応本人にこう尋ねるのだ。
 
「先生アタシぁ連れ合いに先立たれて10年以上になりますが・・・。」
(そんな事聞いてないだろう。第一その話は26回も聞いているぞ!)と突っ込みたくなるのを押さえて押さえてスマイルスマイル。
「だからおばぁちゃん今日はどうされました?」
「何だかこの辺りが最近痛むんですー。一人暮らしでは口聞く人も居なくって淋しいの何のって、それにこの辺りが痛み出すと心細くって・・・。」
ばぁさんそれは何か違うぜ、とか思いつつも、
「フーム・・・検査しましょうか?」
と聞くと、足柄クマの顔つきが変わって、
「検査って例の胃カメラかい?イヤですよ。もう14回目なんだから。」
「14回目?(・・・数えてんじゃネーヨ!そんな事。・・・と思いいつつカルテを確認する。)
そう言えば何回もやっていますねー。エーとそのたびに検査の結果はと・・・何ともないみたいですな。至って健康。しかし・・・どの辺りが一番痛みます。」
「この辺り。」とクマは胸ともおなかともつかないところを指さす。昔(半世紀ほど前)はその辺りに可憐で妖しげなオッパイがあったのかも知れないが今は言うまでもなく、無惨なものである。・・・イヤ当然ありがたい事に着衣であるが、そのくらいの事は容易に想像がつく。
「ウーン、何だろうナァ?心の痛みかなぁ?」
「コ・コ・ロ・ノ・イ・タ・ミ?こころのいたみ?そう言えば一人で淋しい時この辺がシクシク痛むんです。うち淋しオス。」と急に変な京言葉が出てくる。何だか身体も斜めに6度ほど傾いてどうやら、しなを作っているみたいだ。しかし間違いなくばぁさんである。
「(・・・ウワーかんべんしてくれよ。・・・)ワッ、解りました、胃薬と栄養剤と処方しておきましょう。毎食後1錠ずつね。3週間分出しておきますから。」
「うちここに3週間もコレヘンのどすか?長ごおすなぁ。残念やわぁ、淋しいわぁ。・・・。」
「(・・・もう一生来るな。・・・)はぁい、次の方。」
と言ったとたんに電話が鳴る。
 
「はい芸戸ですが。」
「もしもし、お電話で失礼します、私ぃKBSM放送と申しますが、実は私どもの方で来週公開放送を予定しておりまして、テーマは戦後政治とエロスと地域医療というのですが」
「何だかバラバラのテーマですね。」
「えーマァ、そう言うご意見もございますが、その中で来週は“年老いた月光仮面を政治と地域医療は支えきれるのか?京都編”というものを予定しております。・・・つきましては地域医療にご活躍の現代の赤ひげ先生、芸戸教授に是非パネラーとしてご出席願おうと思いまして、このようにお電話で失礼と存じつつもお願いしておるわけでございます。・・・来週の日曜日でございますが先生ご都合の方はよろしいでしょうか?」
「えぇ、悪い事に空いていますね。」
「ほっほっほっ、また先生お上手な、「悪い事に」なんて・・・。ではお願いいたします。当日は3〜4分程度の原稿をご用意頂ければ十分間に合うと思いますので・・・。また詳しい事は後ほど秘書の方にFAXでも差し上げますので・・・。」
(そんなものいる訳ねーじゃねーか。)「アーッと君ぃ、そのぉ細かい事は君達に任すがねぇ、そのぉ出演料というか謝礼というか・・・そんなのはどうなっているんだ?私は性格が真っ直ぐと言うか融通が利かないと言うか、こんな性格なんでね、ハッキリしておきたいのだよ。後で揉めたくはないし・・・。」
「ほっほっほっ、当然でございますよねぇ、私とした事が失礼をいたしました。・・・1本でございます。」
「1本?1本かね。」「はぁい。・・・1本でございますぅ。」
とここで電話が切れた。
 
(1本、1本、まさか100万じゃないよな。でも大の大人を動かして1万てぇ事もないだろう。10万だな10万に違いない。)とニヤける芸戸教授であった。その頃
「アー、零細放送局はイヤだなぁ。1本がまさか新巻鮭1本だとはあの先生思っていないヨナァ、アーどうしよう・・・。」と机に突っ伏す某放送局の制作担当がいたとかいなかったとか・・・。
 
 
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芸戸教授・・・もちろんイメージ画像である。
 
少しヨイショが過ぎるかも知れないが、マァ他の連中もかなりだったし・・・。

 
これも芸戸教授・・・イメージ画像であるがこちらの方がマシかなぁ。。
 
2つの写真が実体とどのくらい違うのかは見る人の想像力に訴える


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