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場外乱闘
頑亭さんは難病に罹っている。本人曰くだんだんユックリ死んで行く病気だそうで、そう言われればそうなのかとその時は納得するのだけれど、良く考えたら解らない。マそれは兎も角彼の送って来たメールの中に面白い物が有ったので、載せる事にした。

 題して 研修医 りえ ♀ 25才。

高野 理恵は女医の半熟卵である。まだ若く・・・つまり大学出たてで、研修生で、25才で、身長は155cmくらいの小柄で体重は50kg以下だと思うのだがそんな事はどうでも良い・・・人生でも職場でもヒヨッコなので何でもやらされる。またそんな時期なので本人も何でもやる。クリクリした大きな目で世界を見ながら、一生懸命毎日をこなしています、と言う感じ。マァ美人と言うカテゴリーに入るし本人もそう思っていると思う。"お変わり御座いませんか〜。"と言いながら受け持ち患者の間を回って歩く。手には理恵スマイルと若さしか持っていない。朝は午前8:00から病棟に顔を出しているし、夜は9:00頃まで居る事も珍しくない。この前も休日返上して、しかも連休を、病棟に来ていた。研修医とはクレイジーである。こうなってくると何時風呂に入るのか、何時掃除・洗濯をするのか、化粧はどうするんだとか、余計な事を考えるようになる。そうそうデートはどうするんだとかね。その割にはお化粧も、お洒落も頑張ってしているようでそんな事でも、高野 理恵やるな、と思ってしまう。

 先日僕のルンバールという骨髄液を抜く検査があって、この検査は脊椎に注射針を差し込んで髄液を抜くという結構過激な物で、H大でもやったが、骨と注射針がこすれてズズーッという感じで実に嫌なものだった。事前に行う麻酔も痛かったし、この検査にはチットモいい思い出が無い。と言うか二度とやりたくないとまで思っていた。だが悲しいかなやはりK大病院でもやると決まって・・・と言うか多分、ここに初めて診て貰う僕の場合当然なんだけど、僕は前日に検査実施を知らせに来た高野 理恵に聞いた。 
"あのう、それで誰がやるんですか・・・?"
"斉藤先生です。"
斉藤先生か。それなら仕方ないな。一応ベテランだろうし。H大でも同じような人がやったもんナァ。第一今更避けては通れないし等とイロイロ考えながら、僕は"あれ、痛いモンねぇ"などと理恵に気弱な事を言っていた。彼女も顔をかわいくしかめて"そうですね。"と言った所を見るとあの検査の痛さとか気持ちの悪さはそれなりに良く解ってるんだ。


そして当日。検査一式を抱えて斉藤先生と、高野 理恵がやって来た。こう言う検査とか手術とかいわゆる病院で行われる事は、始まってしまうと"エーイッ"と相手に託さなければしょうが無い。自分の体が無自覚な塊になってベッドに横たわっているのを、いやーな気持ちで、ある意味第三者的に自分をナガメテいる・・・正確にはそう思うようにしている、そう感じるようにしている。体の上の方で斉藤先生の声がする。腰の辺りを触られている感じがする。"そうそう。そこの辺。"と僕の腰の辺りを幾つかの手が触りまくる。僕はくすぐったがりだものだから変な声が出て首をすくめる。斉藤先生は僕に、もっと腰を曲げて膝を抱え込むようにしてと、前衛舞踊の脇役にポーズを付けるような指示をする。少しわざとらしい違和感の有る姿勢でジッとしていると少ししんどい。その内、腰に冷たいガーゼらしき物の感触がして、グルグル回りだした。すぐ終わるだろうと思っているとそのグルグルはなかなか終わらない。"消毒を先にしておこうと思いまして"と高野 理恵の多少言い訳めいた声が聞こえる。消毒は当たり前なんだけどそれにしては少し長いぞ。この間に彼女は気持ちを鎮めていたのかも知れない。今から目の前でおこる執刀手術よりは随分簡単なものの傷口にバンドエイドを貼るような訳には行かないこの検査が始まる前に。

 "少しチクッとしますよ〜。"と斉藤先生の声がする。どうやら麻酔の注射らしい。確かにチクッとした。その内腰の辺りを触る感じがして何か刺さって行く感じがしたのだが、二人の話し声からすると僕の体の前のほうに斉藤先生、腰のほうに高野 理恵が居るではないか。オイオイ。やってるのは高野 理恵じゃないか。"んーン、出てる出てる。"と斉藤先生の声。何が出てる出てるだこのヤロー。何か器具の使い方を教えているらしい。"チョッと力が要るけど。・・・そうそうそう、ウンウン"何、力がいる?あの小柄で華奢な高野 理恵にそんな力が有りそうには見えないけど。僕は小さな彼女の手と指を思い出す。一体どんな道具を使ってるんだ。と状況が全く解らないまま事態は進展してゆく。

おそらく僕の脊椎には、高野 理恵が刺した、・・・刺しやがった注射器が刺さっているのだろう。そしてそれからはポタポタと僕の骨髄液が出ているに違いない。何度か斉藤先生は"力が要る"を連発した。オイオイ。テメェヤベェンじゃネーか?と言っても僕は大人しくしているより他に無いのである。このあたりになると、する側の無慈悲とされる側の無力を思い知らされる。何か有ったら斉藤、お前の所為だからなと僕は心の中で毒づく。少し長い時間がかかったような気がしたがルンバールは無事終了した。それにしても、理恵怖かったぜ。採血とかやってる時、自信無さそうだモンね。いやぁ上手く行ってよかった。と本心からそう思う。

 後で高野 理恵先生に上手く行って良かったですね。と言ったら"これが3回目なんです。"と例の満面の笑みが返って来た。・・・やれやれ。